村上春樹の名言

風の歌を聴け

出版社:講談社文庫

単行本発売日:1979/01

文庫:160ページ

P.7
「完璧な文章などといったものは存在しない。完璧な絶望が存在しないようにね。」

P.117
「条件はみんな同じなんだ。故障した飛行機に乗り合わせたみたいにさ。もちろん運の強いのもいりゃ運の悪いものもいる。タフなのもいりゃ弱いのもいる、金持ちもいりゃ貧乏人もいる。だけどね、人並み外れた強さを持ったやつなんて誰もいないんだ。みんな同じさ。何かを持ってるやつはいつか失くすんじゃないかとビクついてるし、何も持ってないやつは永遠に何ももてないんじゃないんじゃないかと心配してる。みんな同じさ。だから早くそれに気づいた人間がほんの少しでも強くなろうって努力するべきなんだ。振りをするだけでもいい。そうだろ? 強い人間なんてどこにも居やしない。強い振りのできる人間が居るだけさ。」

P.126
僕は時折嘘をつく。
最後に嘘をついたのは去年のことだ。
嘘をつくのはひどく嫌なことだ。嘘と沈黙は現代の人間社会にはびこる二つの巨大な罪だと言ってもよい。実際僕たちはよく嘘をつき、しょっちゅう黙りこんでしまう。
しかし、もし僕たちが年中しゃべり続け、それも真実しかしゃべらないとしたら、真実の価値など失くなってしまうのかもしれない。

P.147
あらゆるものは通りすぎる。誰にもそれを捉えることはできない。
僕たちはそんな風にして生きている。

 

1973年のピンボール

出版社:講談社文庫

単行本発売日:1980/01

文庫:183ページ

P.92
「猫の手を潰す必要なんて何処にもない。とてもおとなしい猫だし、悪いことなんて何もしやしないんだ。それに猫の手を潰したからって誰が得するわけでもない。無意味だし、ひどすぎる。でもね、世の中にはそんな風な理由もない悪意が山とあるんだよ。あたしにも理解できない、あんたにも理解できない。でもそれは確かに存在しているんだ。取り囲まれてるって言ったっていいかもしれないね。」

P.105
「遠くから見れば、大抵のものは綺麗に見える。」

 

羊をめぐる冒険

出版社:講談社文庫

単行本発売日:1982/10

文庫:上268ページ  下257ページ

(上)P.99
我々は偶然の大地をあてもなく彷徨っているということもできる。ちょうどある種の植物の羽根のついた種子が気紛れな春の風に運ばれるのと同じように。
しかしそれと同時に偶然性なんてそもそも存在しないと言うこともできる。もう起こってしまったことは明確に起こってしまったことであり、まだ起こっていないことはまだ明確に起こっていないことである、と。つまり我々は背後の「全て」と眼前の「ゼロ」にはさまれた瞬間的な存在であり、そこには偶然もなければ可能性もない、ということになる。
しかし、実際にはそのふたつの見解のあいだにたいした違いはない。それは(大方の対立する見解がそうであるように)ふたつの違った名前で呼ばれる同一の料理のようなものである。

(下)P.201
「一般論をいくら並べても人はどこにも行けない。俺は今とても個人的な話をしてるんだ」

(下)P.204
「俺は俺の弱さが好きなんだよ。苦しさやつらさも好きだ。夏の光や風の匂いや蝉の声や、そんなものが好きなんだ。どうしようもなく好きなんだ。君と飲むビールや……」

 

世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド

出版社:新潮文庫

単行本発売日:1985/6

文庫:上347ページ  下397ページ

上 P.362
どれだけの天才でもどれだけの馬鹿でも自分一人だけの純粋な世界なんて存在しえないんだ。どんなに地下深くに閉じこもろうが、どんな高い壁をまわりにめぐらそうがね。

上 P.372
「信じるのよ。さっきも言ったでしょ?信じていれば怖いことなんて何もないのよ。楽しい思い出や、人を愛したことや、泣いたことや、子供の頃のことや、将来の計画や、好きな音楽や、そんな何でもいいわ。そういうことを考えつづけていれば、怖がることはないのよ」

下 P.332
誰も私を助けてはくれなかった。誰にも私を救うことはできないのだ。ちょうど私が誰をも救うことができなかったのと同じように。

 

ノルウェイの森

出版社:講談社文庫

単行本発売日:1987/09

文庫:上302ページ  下293ページ

上 P.20 : 直子
「私のことを覚えていてほしいの。私が存在し、こうしてあなたのとなりにいたことをずっと覚えていてくれる?」

上 P.67 : 永沢
「他人と同じものを読んでいれば他人と同じ考え方しかできなくなる。そんなものは田舎者、俗物の世界だ。まともな人間はそんな恥ずかしいことはしない。なあ知ってるか、ワタナベ?この寮で少しでもまともなのは俺とお前だけだぞ。あとはみんな紙屑みたいなもんだ」

上 P.124
たぶん我々はあのとき会うべくして会ったのだし、もしあのとき会っていなかったとしても、我々はべつのどこかで会っていただろう。とくに根拠があるわけではないのだが、僕はそんな気がした。

上 P.155 : 僕
「昼飯をごちそうしてもらったくらいで一緒に死ぬわけにはいかないよ。夕食ならともかくさ」

上 P.229 : 直子
「死んだ人はずっと死んだままだけど、私たちはこれからも生きていかなきゃならないんだもの」

下 P.6 : レイコ
「私たちがもともな点は」「自分たちがまともじゃないってわかっていることよね」

下 P.170 : 永沢
「自分に同情するな」「自分に同情するのは下劣な人間のやることだ」

下 P.183 : 僕
お前とちがって俺は生きると決めたし、それも俺なりにきちんと生きると決めたんだ。お前だってきっと辛かっただろうけど、俺だって辛いんだ。本当だよ。これというのもお前が直子を残して死んじゃったせいなんだぜ。でも俺は彼女を絶対に見捨てないよ。何故なら俺は彼女が好きだし、彼女よりは俺の方が強いからだ。そして俺は今よりもっと強くなる。そして成熟する。大人になるんだよ。そうしなくてはならないからだ。俺はこれまでできることなら十七や十八のままでいたいと思っていた。でも今はそうは思わない。俺はもう十代の少年じゃないんだよ。俺は責任というものを感じるんだ。なあキズキ、俺はもうお前と一緒にいた頃の俺じゃないんだよ。俺はもう二十歳になったんだよ。そして俺は生きつづけるための代償をきちっと払わなきゃならないんだよ。

下 P.205 : 緑
「どうしてあなたってそんなに馬鹿なの?会いたいにきまってるでしょう?だって私あなたのことが好きだって言ったでしょ?私そんなに簡単に人を好きになったり、好きじゃなくなったりしないわよ。そんなこともわかんないの?」

下 P.220 : レイコ
しかし結局のところ何が良かったなんて誰にわかるというのですか?だからあなたは誰にも遠慮なんかしないで、幸せになれると思ったらその機会をつかまえて幸せになりなさい。私は経験的に思うのだけれど、そういう機会は人生に二回か三回しかないし、それを逃すと一生悔やみますよ。

下 P.226
「死は生の対極にあるのではなく、我々の生のうちに潜んでいるだ」

下 P.227
どのような真理をもってしても愛するものを亡くした哀しみを癒すことはできないのだ。どのような真理も、どのような誠実さも、どのような強さも、どのような優しさも、その哀しみを癒すことはできないのだ。我々はその哀しみを哀しみ抜いて、そこから何かを学びとることしかできないし、そしてその学びとった何かも、次にやってくる予期せぬ哀しみに対しては何の役にも立たないのだ。

ダンス・ダンス・ダンス

出版社:講談社文庫

単行本発売日:1988/10

文庫:上415ページ  下408ページ

上 P.164 : 羊男
「踊るんだよ」
「音楽の鳴っている間はとにかく踊り続けるんだ。おいらの言っていることはわかるかい?踊るんだ。踊り続けるんだ何故踊るかなんて考えちゃいけない。意味なんてことは考えちゃいけない。意味なんてもともとないんだ。そんなこと考えだしたら足が停まる。一度足が停まったら、もうおいらには何ともしてあげられなくなってしまう。あんたの繋がりはもう何もなくなってしまう。永遠になくなってしまうんだよ。そうするとあんたはこっちの世界の中でしか生きていけなくなってしまう。どんどんこっちの世界に引き込まれてしまうんだ。だから足を停めちゃいけない。どれだけ馬鹿馬鹿しく思えても、そんなこと気にしちゃいけない。きちんとステップを踏んで踊り続けるんだよ。そして固まってしまったものを少しずつでもいいからほぐしていくんだよ。まだ手遅れになっていないものもあるはずだ。使えるものは全部使うんだよ。ベストを尽くすんだよ。怖がることは何もない。あんたはたしかに疲れている。疲れて、脅えている。誰にでもそういう時がある。何もかもが間違っているように感じられるんだ。だから足が停まってしまう」
「でも踊るしかないんだよ」
「それもとびっきり上手く踊るんだ。みんなが感心するくらいに。そうすればおいらもあんたのことを、手伝ってあげられるかもしれない。だから踊るんだよ。音楽の続く限り」
オドルンダヨ。オンガクノツヅクカギリ。

上 P.210 : 僕
「本当にいいものはとても少ない。何でもそうだよ。本でも、映画でも、コンサートでも、本当にいいものは少ない。ロック・ミュージックだってそうだ。いいものは一時間ラジオを聴いて一曲くらいしかない。あとは大量生産の屑みたいなもんだ。でも昔はそんなこと真剣に考えなかった。何を聞いてもけっこう楽しかった。若かったし、時間は幾らでもあったし、それに恋をしていた。つまらないものにも、些細なことにも心の震えのようなものを託することができた。僕の言ってることわかるかな?」

下 P.94 : ディック・ノース
「アメに最初に会った時、彼女にどうしようもなく引き寄せられたんです。渦のようにです。抵抗のしようもなかったんです。僕にはわかったんです。これは一生に一度のことなんだって。こういう巡り合いというのは一生に一度しかないことなんだって。そういうのってね、わかるんですよ、ちゃんと。で、僕は思いました。この人と一緒になったらたぶん僕はいつか後悔することになるだろう。でも一緒にならなかったら、僕の存在そのものが意味を失うことになるって。あなたはこれまでに、そういう風に思ったことあります?」

下 P.209
僕はいったいどうすればいいのだろう?
でもどうすればいいのかは僕にはわかっていた。
とにかく待っていればいいのだ。
何かがやってくるのを待てばいいのだ。いつもいつもそうだった。手詰まりになったときには、慌てて動く必要はない。じっと待っていれば、何かが起こる。何かがやってくる。じっと目をこらして、薄明の中で何かが動き始めるのを待っていればいいのだ。僕は経験からそれを学んだ。それはいつか必ず動くのだ。もしそれが必要なものであるなら、それは必ず動く。
よろしい、ゆっくり待とう。

下 P.379 : 僕
「なんて言えば、いいんだろうな?それは決まっていることなんだよ。僕は一度もそれを疑ったことはない。君は僕とねるんだよ、最初からそう思っていた。でも最初の時はそれができなかった。そうするのが不適当だったからだよ。だからぐるっと一回りするまで待った。一回りした。今は不適当じゃない」

下 P.391 : 僕
「耳を澄ませば求めているものの声が聞こえる。目をこらせば求められているものの姿が見える」

 

国境の南、太陽の西

出版社:講談社

単行本発売日:1992/10

文庫本:302ページ

P.40
人間というのはある場合には、その人間が存在しているというだけで誰かを傷つけてしまうことになるのだ。

P.55
いちばん大きな問題は僕が彼女を納得させることができないということなのだ。そして何故僕が彼女を納得させられないかというと、それは僕が僕自身を納得させられないからだった。

P.110 : 高校時代の同級生
「誰かの人生というのは結局のところその誰かの人生なんだ。君がその誰かにかわって責任を取るわけにはいかないんだよ。ここは砂漠みたいなところだし、俺たちはみんなそれに馴れていくしかないんだ。」

P.241:島本さん
「あなたが運転しているのをこうして横で見ていると、私ときどき手を伸ばしてそのハンドルを思い切りぐっと回してみたくなるの。そんなことをしたら死んじゃうでしょうね」

P.247:ハジメ
「僕は君のことを愛している。それはたしかだ。僕が君に対して抱いている感情は、他のなにものをもってしても代えられないものなんだ」
「それは特別なものであり、もう二度と失うわけにはいかないものなんだ。僕はこれまでに何度か君の姿を見失った。でもそれはやってはいけないことだったんだ。間違ったことだった。僕は君の姿を見失うべきではなかった。この何ヶ月かのあいだに、僕にはそれがよくわかったんだ。僕は本当に君を愛しているし、君のいない生活に僕はもう耐えることができない。もうどこにも行ってほしくない」

P.247:島本さん
「私には中間というものが存在しないのよ。私の中には中間的なものは存在しないし、中間的なものが存在しないところには、中間もまた存在しないの。だから私を全部取るか、それとも私を取らないか、そのどちらかしかないの。それが基本的な原則なの。」

P.250:島本さん
「私は十二のときから、もうあなたに抱かれたいと思っていたのよ。でもあなたはそんなこと知らなかったでしょう?」

P.252:島本さん
「私は急ぎたくないのよ。だってここに来るまでにこんなに長くかかったんだもの。私はまずあなたの体を全部この目で見て、この手で触って、この舌で舐めたいの。ひとつひとつ時間をかけてたしかめたいのよ。まずそれを済ませないと、私はそこから先に進めないの。」

P.290:有紀子
「資格のことは忘れなさいよ。きっと誰にも資格なんていうようなものはないんだから」

P.296:有紀子
「あなたはまたいつか私を傷つけるかもしれない。そのときに私がどうなるか、それは私にもわからない。あるいは今度は私があなたを傷つけることになるかもしれない。何かを約束することなんか誰にもできないのよ、きっと。私にもできないし、あなたにもできない。でもとにかく、私はあなたのことが好きよ。それだけのことなの」

 

ねじまき鳥クロニクル

出版社:新潮社

第1部発売日:1994/04

単行本:第1部 308ページ、第2部 356ページ、第3部 492ページ

第一部 P.35:笠原メイ
「人が死ぬのって、素敵よね」

第一部 P.77:加納マルタ
「よろしいですか、岡田様、そういうことは起こりうるのです。岡田様もよく御存知のように、ここは暴力的で、混乱した世界です。そしてその世界の内側にはもっと暴力的で、もっと混乱した場所があるのです。おわかりになりますか?起こってしまったことは起こってしまったことです。」

第一部 P.94:本田さん
「流れに逆らうことなく、上に行くべきは上に行き、下に行くべきは下に行く。上に行くべきときには、いちばん高い塔をみつけてそのてっぺんに登ればよろしい。下に行くべきとには、いちばん深い井戸をみつけてその底に下りればよろしい。流れがないときには、じっとしておればよろしい。流れにさからえばすべては涸れる。すべてが涸れればこの世は闇だ。」

第一部 P.96:本田さん
「流れというのが出てくるのを待つのは辛いもんだ。しかし待たねばならんときには、待たねばならん。そのあいだは死んだつもりでおればいいんだ」

第一部 P.307:間宮中尉
「日本に戻ってきてから、私はずっと脱け殻のように生きておりました。そして脱け殻のようにしていくら長く生きたところで、それは本当に生きたことにはならんのです。脱け殻の心と、脱け殻の肉体が生み出すものは、脱け殻の人生に過ぎません。私が岡田さんにわかっていただきたいのは、実はそのことだけです」

第二部 P.14:加納マルタ
「今は待つしかありません。しかしおそらく近々に、いろんな物事が明らかになっていくでしょう。今は待つしかありません。お辛いとは思いますが、ものごとにはしかるべき時期というのがあります。潮の満干と同じことです。誰にもそれを変えることはできません。待つべきときにはただ待つしかないのです」

第二部 P.63:間宮中尉
「戦争が終わって随分時間も経ちましたし、記憶というものもそれにつれて自然に変質していくものです。人が老いるのと同じように、記憶や思いもやはり老いていくのです。しかし中には決して老いることのない思いもあります。褪せない記憶もあります。」

第二部 P.153:笠原メイ
「ねえ、ねじまき鳥さん、知ってる?あなたは私の気持ちひとつでそのまま死んじゃうかもしれないのよ。」

第二部 P.249:加納クレタ
「たしかに岡田様のまわりではこの何ヵ月かのあいだにいろんなことが起こりました。それについては私たちにも幾分かの責任があるかもしれません。でもそれは遅かれ早かれいつかは起こらなくてはならないことだったのではないかと私は思うのです。そしていつか起こらなくてはならないことであったのなら、それは早く起こった方がかえってよかったのではないでしょうか?私は本当にそんな風に感じているのですよ。いいですか、岡田様、もっとひどいことにだってなったのです」

第二部 P.261:僕
「ねじまき鳥は実在する鳥なんだ。どんな格好をしているかは、僕も知らない。僕も実際にその姿を見たことはないからね。声だけしか聞いたことがない。ねじまき鳥はその辺の木の枝にとまってちょっとずつ世界のねじを巻くんだ。ぎりぎりという音を立ててねじを巻くんだよ。ねじまき鳥がねじを巻かないと、世界が動かないんだ。でも誰もそんなことは知らない。世の中の人々はみんなもっと立派で複雑で巨大な装置がしっかりと世界を動かしていると思っている。でもそんなことはない。本当はねじまき鳥がいろんな場所に行って、行く先々でちょっとずつ小さなねじを巻いて世界を動かしているんだよ。それはぜんまい式のおもちゃについているような、簡単なねじなんだ。ただそのねじを巻けばいい。でもそのねじはねじまき鳥にしか見えない」

第二部 P.266
明日になって何が起こるかは、誰にもわからないのだ。明後日のことなんて、もっとわからない。いや、そんなことを言いだせば今日の午後に何が起こるかだって見当もつかないのだ。

第二部 P.307:叔父
「コツというのはね、まずあまり重要じゃないところから片づけていくことなんだよ。つまりAからZまで順番をつけようと思ったら、Aから始めるんじゃなくて、XYZのあたりから始めていくんだよ。」
「何か大事なことを決めようと思ったときはね、まず最初はどうでもいいようなところから始めた方がいい。誰が見てもわかる、誰が考えてもわかる本当に馬鹿みたいなところから始めるんだ。そしてその馬鹿みたいなところにたっぷりと時間をかけるんだ」

第二部 P.309:叔父
「俺はね、どちらかというと現実的な人間なんだ。この自分のふたつの目で納得するまで見たことしか信用しない。理屈や能書きや計算は、あるいは何とか主義やなんとか理論なんてものは、だいたいにおいて自分の目でものを見ることができない人間のためのものだよ。そして世の中の大抵の人間は、自分の目でものを見ることができない。それがどうしてなのかは、俺にもわからない。やろうと思えば誰にだってできるはずなんだけどね」

第二部 P.310:叔父
「時間をかけることを恐れてはいけないよ。たっぷりと何かに時間をかけることは、ある意味ではいちばん洗練されたかたちでの復讐なんだ」

第二部 P.327
僕は逃げられないし、逃げるべきではないのだ。それが僕の得た結論だった。たとえどこに行ったところで、それは必ず僕を追いかけてくるだろう。どこまでも。

第二部 P.333:かつて加納クレタであった女
「ここは血なまぐさく暴力的な世界です。強くならなくては生き残ってはいけません。でもそれと同時に、どんな小さな音をも聞き逃さないように静かに耳を澄ませていることもとても大事なのです。おわかりになりますか?良いニュースというのは、多くの場合小さな声で語られるのです。どうかそのことを覚えていてください」

第三部 P.261:僕(コンピューターの通信内容)
君は僕にすべてを忘れてほしいと言う。自分のことはもう放っておいてもらいたいと言う。でもそれと同時に、君はこの世界のどこかから僕に向かって助けを求めている。それはとても小さな遠い声だけれど、静かな夜には僕はその声をはっきりと聞き取ることができる。それは間違いなく君の声だ。

第三部 P.262:僕(コンピューターの通信内容)
僕はなんと言われても、たとえどんな正当な理由があっても、君のことを簡単に忘れ去ったり、君と暮らした年月をどこかに追いやることはできない。

第三部 P.416:皮剥ぎボリス
「気の毒だが君は私の呪いを抱えて故郷に戻ることになる。いいかい、君はどこにいても幸福にはなれない。君はこの先人を愛することもなく、人に愛されることもない。それが私の呪いだ。」

第三部 P.438:僕
「正確に言えば、僕は君に会うためにここに来たわけじゃない。君をここから取り戻すために来たんだ」

第三部 P.492:笠原メイ
「ねじまき鳥さん、何かがあったら大きな声で私を呼びなさいね。私と、それからアヒルのヒトたちをね」

 

スプートニクの恋人

出版社:講談社

単行本発売日:1999/4

文庫本:328ページ

P.38 : ミュウ
「わたしは昔から人を顔で判断することにしているの」
「それで、つまり、わたしはあなたの顔立ちと表情の動きが気に入ったの。とても」

P.72 : ミュウ
「どんなことでもそうだけれど、結局いちばん役に立つのは、自分の体を動かし、自分のお金を払って覚えたことね。本から得たできあいの知識じゃなくて」

P.73 : ミュウ
「あなたにはたぶんわからないでしょうね」
「ここにいるわたしは本当のわたしじゃないの。今から14年前に、わたしは本当のわたしの半分になってしまったのよ。」

P.296 : ぼく
「長いあいだ一人でものを考えていると、結局のところ一人ぶんの考え方しかできなくなるんだということが、ぼくにもわかってきた。ひとりぼっちであるというのは、ときとして、ものすごくさびしいことなんだって思うようになった。」

P.333
どれだけ深く致命的に失われていても、どれほど大事なものをこの手から簒奪されていても、あるいは外側の一枚の皮膚だけを残してまったくちがった人間に変わり果ててしまっていても、ぼくらはこのように黙々と生を送っていくことができるのだ。手をのばして定められた量の時間をたぐり寄せ、そのままうしろに送っていくことができる。日常的な反復作業として ― 場合によってはとても手際よく。そう考えるとぼくはひどくうつろな気持ちになった。

P.314
ぼくは夢を見る。どきどきぼくにはそれがただひとつの正しい行為であるように思える。夢を見ること、夢の世界に生きること ― すみれが書いていたように。でもそれは長くはつづかない。いつか覚醒がぼくをとらえる。

 

海辺のカフカ

出版社:新潮社

単行本発売日:2002/9/12

単行本:上397ページ  下429ページ

(上) P.8 : カラスと呼ばれる少年
「君はこれから世界でいちばんタフな15歳の少年にならなくちゃいけないんだ。なにがあろうとさ。そうする以外に君がこの世界を生きのびていく道はないんだからね。そしてそのためには、ほんとうにタフであるというのがどういうことなのか、君は自分で理解しなくちゃならない。」

(上) P.253 : ジョニー・ウォーカー
「目を閉じちゃいけない」
「それも決まりなんだ。目を閉じちゃいけない。目を閉じても、ものごとはちっとも良くならない。目を閉じて何かが消えるわけじゃないんだ。それどころか、次に目を開けたときにはものごとはもっと悪くなっている。私たちはそういう世界に住んでいるんだよ、ナカタさん。しっかりと目を開けるんだ。目を閉じるのは弱虫のやることだ。現実から目をそらすのは卑怯もののやることだ。君が目を閉じ、耳をふさいでいるあいだにも時は刻まれているんだ。コツコツと」

(上) P.280 : 大島さん
「田村カフカくん、僕らの人生にはもう後戻りができないというポイントがある。それからケースとしてはずっと少ないけれど、もうこれから先には進めないというポイントがある。そういうポイントが来たら、良いことであれ悪いことであれ、僕らはただ黙ってそれを受け入れるしかない。僕らはそんなふうに生きているんだ」

(上) P.329 : ハギタさん
「世界は日々変化しているんだよ、ナカタさん。毎日時間が来ると夜が明ける。でもそこにあるのは昨日と同じ世界ではない。そこにいるのは昨日のナカタさんではない。わかるかい?」

(下) P.152 : 大島さん
「世の中のほとんどの人は自由なんて求めてはいないんだ。求めていると思いこんでいるだけだ。すべては幻想だ。もしほんとうに自由を与えられたりしたら、たいていの人間は困り果ててしまうよ。覚えておくといい。人々はじっさいには不自由が好きなんだ。」

(下) P.305 : カラスと呼ばれる少年
「起こってしまったことというのは、粉々に割れてしまったお皿と同じだ。どんなに手を尽くしても、それはもとどおりにはならない。」

(下) P.379 : 佐伯さん
「私があなたに求めていることはたったひとつ」
「あなたには私のことを覚えていてほしいの。あなたさえ私のことを覚えていてくれれば、ほかのすべての人に忘れられたってかまわない」

(下) P.422 : 大島さん
「僕らはみんな、いろんな大事なものをうしないつづける」、ベルが鳴りやんだあとで彼は言う。「大事な機会や可能性や、取りかえしのつかない感情。それが生きることのひとつの意味だ。でも僕らの頭の中には、たぶん頭の中だと思うんだけど、そういうものを記憶としてとどめておくための小さな部屋がある。きっとこの図書館の書架みたいな部屋だろう。そして僕らは自分の心の正確なありかを知るために、その部屋のための検索カードをつくりつづけなくてはならない。掃除をしたり、空気を入れ替えたり、花の水をかえたりすることも必要だ。言い換えるなら、君は永遠に君自身の図書館の中で生きていくことになる」

(下) P.425 : 大島さん
「世界はメタファーだ、田村カフカくん」
「でもね、僕にとっても君にとっても、この図書館だけはなんのメタファーでもない。この図書館はどこまで行っても―――この図書館だ。僕と君のあいだで、それだけははっきりしておきたい」

怪奇なる世界というのは、つまりは我々自身の心の闇のことだ。『海辺のカフカ』

アフターダーク

出版社:講談社

単行本発売日:2004/9/7

単行本:288ページ

P.132
高橋 : 「僕にはそれほどの才能はない。音楽をやるのはすごく楽しいけどさ、それで飯は食えないよ。何かをうまくやることと、何かを本当にクリエイトすることのあいだには、大きな違いがあるんだ。僕はけっこううまく楽器を吹くことができると思う。褒めてくれる人もいるし、褒められるともちろん嬉しい。でもそれだけだ。だから今月いっぱいでバンドやめて、音楽からは足を洗おうと思ってるんだ」

マリ : 「何かを本当にクリエイトするって、具体的にいうとどういうことなの?」

高橋 : 「そうだな……音楽を深く心に届かせることによって、こちらの身体も物理的にいくらかすっと移動し、それと同時に、聴いてる方の身体も物理的にいくらかすっと移動する。そういう共有的な状態を生み出すことだ。たぶん」

P.141 : 高橋
「法律を勉強するのは、音楽をやるほど楽しくないかもしれないけど、しょうがない、それが人生だ。それが大人になるということだ。」

P.213 : 高橋
「一度でも孤児になったものは、死ぬまで孤児なんだ。よく同じ夢を見る。僕は七歳で、また孤児になっている。ひとりぼっちで、頼れる大人はどこにもいない。時刻は夕方で、あたりは刻一刻と暗くなっていく。夜がすぐそこまで迫っている。いつも同じ夢だ。夢の中では、僕はいつも七歳に戻っている。そういうソフトウェアってさ、いったん汚染されると交換がきかなくなるんだね」

P.241 : コオロギ
「世の中にはね、一人でしかできんこともあるし、二人でしかできんこともあるんよ。それをうまいこと組み合わせていくのが大事なんや」

P.244 : コオロギ
「人間ゆうのは、記憶を燃料にして生きていくものなんやないのかな。その記憶が現実的に大事なものかどうかなんて、生命の維持にとってはべつにどうでもええことみたい。ただの燃料やねん。新聞の広告ちらしやろうが、哲学書やろうが、エッチなグラビアやろうが、一万円札の束やろうが、火にくべるときはみんなただの紙きれでしょ。火の方は『おお、これはカントや』とか『これは読売新聞の夕刊か』とか『ええおっぱいしとるな』とか考えながら燃えてるわけやないよね。火にしてみたら、どれもただの紙切れに過ぎへん。それとおなじなんや。大事な記憶も、それほど大事やない記憶も、ぜんぜん役に立たんような記憶も、みんな分け隔てなくただの燃料」

P.256 : 中国人組織の男
「逃げ切れないよ」
「逃げ切れない。どこまで逃げてもね、わたしたちはあんたをつかまえる」
「わたしたちは、あんたの背中を叩くことになる。顔もわかってるいるんだ」
「いつかどこかであんたの背中を叩く人間がいたら、それはわたしたちだよ」
「あんたは忘れるかもしれない。わたしたちは忘れない」
「逃げ切れない」

P.279
マリはふと思う、私はこことは違う場所にいることだってできたのだ。そしてエリだって、こことは違う場所にいることはできたのだ。

 

1Q84

出版社:新潮社

単行本発売日:2009/5/29

単行本:BOOK1 554ページ、BOOK2 501ページ、BOOK3 602ページ

Book1 P.22:タクシーの運転手
「ひとつ覚えておいていただきたいのですが、ものごとは見かけと違います」

Book1 P.344:青豆
「でもね、メニューにせよ、ほかの何にせよ、私たちは自分で選んでいるような気になっているけど、実は何も選んでないのかもしれない。それは最初からあら かじめ決まっていることで、ただ選んでいるふりをしているだけかもしれない。自由意志なんて、ただの思い込みかもしれない。ときどきそう思うよ」

Book1 P.358
悪い予感というのは、良い予感よりずっと高い確率で的中する。

Book1 P.359:小松
「君は小説家になりたいんだろう。だったら想像しろ。見たこともないものを想像するのが作家の仕事じゃないか」

Book1 P.525:あゆみ
「あいつらはね、忘れることができる」
「でもこっちは忘れない」
「歴史上の大量虐殺と同じだよ」
「やった方は適当な理屈をつけて行為を合理化できるし、忘れてもしまえる。見たくないものから目を背けることもできる。でもやられた方は忘れられない。目 も背けられない。記憶は親から子へと受け継がれる。世界というのはね、青豆さん、ひとつの記憶とその反対側の記憶との果てしない闘いなんだよ」

Book1 P.530:タマル
「警察なんて何の役にも立たない。見当違いなところで見当違いなことをやって、話がますます面倒になるだけだ」

Book2 P.36:安田恭子
「私にはあなたの知らない過去がたくさんあるの。誰にも作り替えようのない過去がね」

Book2 P.44:牛河
「何か重要なものを創り上げるには、あるいは何か重要なものを見つけ出すには、時間がかかりますし、お金がかかります。もちろん時間とお金をかければ立派 なことが成し遂げられるというものじゃありません。しかしどちらも、あって邪魔にはなりません。とくに時間の総量は限られています。時計は今もちくたくと 時を刻んでいます。時はどんどん過ぎ去っています。チャンスは失われていきます。そしてお金があれば、それで時間を買うことができます。買おうと思えば、 自由だって買えます。時間と自由、それが人間にとってお金で買えるもっとも大事なものです」

Book2 P.75:タマル
「人間にとって死に際というのは大事なんだよ。生まれ方は選べないが、死に方は選べる」

Book2 P.181:天吾の父
「説明しなくてはそれがわからんというのは、つまり、どれだけ説明してもわからんということだ」

Book2 P.230
目の前に為すべき仕事があれば、それを達成するために全力を尽くさないわけにはいかない。それが私という人間なのだ。

Book2 P.237:さきがけのリーダー
「神は与え、神は奪う。あなたが与えられたことを知らずとも、神は与えたことをしっかり覚えている。彼らは何も忘れない。与えられた才能をできるだけ大事に使うことだ」

Book2 P.497
このまま逃げ出すわけにはいかない。いつまでも怯えた子供のように、前にあるものごとから目を背けて生きていくことはできない。真実を知ることのみが、人に正しい力を与えてくれる。それがたとえどのような真実であれ。

Book3 P.48:青豆
「希望があるところには必ず試練があるものだから」

Book3 P.93
人は希望を与えられ、それを燃料とし、目的として人生を生きる。希望なしに人が生き続けることはできない。しかしそれはコイン投げと同じだ。表側が出るか 裏側が出るか、コインが落ちてくるまではわからない。そう考えると心が締めあげられる。身体中の骨という骨が軋んで悲鳴をあげるくらい強く。

Book3 P.101:NHKの集金人
「どれほどこっそり息を潜めていても、そのうちに誰かが必ずあなたを見つけ出します」

Book3 P.311
死ぬまではとにかく生きていくしかないわけだし、生きていくには俺なりのやり方で生きていくしかない。あまり褒められた類のものではないにせよ、それ以外に俺が生きていく方法はないのだから。

Book3 P.335:タマル
「プロというのは猟犬と同じだ。普通の人間には嗅ぎ取れない匂いを嗅ぎとり、普通の人間には聞こえない音を聞きとる。普通の人間と同じことを同じようにし ていたらプロにはなれない。たとえなれたとしてもあまり長生きはできない。だから注意した方がいい。あんたは注意深い人間だ。そのことは俺もよく知ってい る。しかし これまで以上によくよく注意をした方がいい。いちばん大事なものごとはパーセンテージでは決まらない」

Book3 P.475
私はたまたまここに運び込まれたのではない。
私はいるべくしてここにいるのだ。

Book3 P.483:安達クミ
「人が一人死ぬというのは、どんな事情があるにせよ大変なことなんだよ。この世界に穴がひとつぽっかり開いてしまうわけだから。それに対して私たちは正しく敬意を払わなくちゃならない。そうしないと穴はうまく塞がらなくなってしまう」

Book3 P.531
これからはこれまでとは違う。私はもうこれ以上誰の勝手な意思にも操られはしない。これから私は自分にとってのただひとつの原則、つまり私の意思に従って行動する。

Book3 P.594:青豆
天上のお方さま、あなたの御名がどこまでも清められ、あなたの王国が私たちにもたらされますように。私たちの多くの罪をお許しください。私たちのささやかな歩みにあなたの祝福をお与え下さい。アーメン。

レキシントンの幽霊

出版社:文春文庫

単行本発売日:1994/04

文庫本:213ページ

七番目の男 P.177
男は言葉を探すように、もう一度シャツの襟に手をやった。
「私は考えるのですが、この私たちの人生で真実恐いのは、恐怖そのものではありません」、男は少しあとでそう言った。「恐怖はたしかにそこにあります。……それは様々なかたちをとって現れ、ときとして私たちの存在を圧倒します。しかしなによりも怖いのは、その恐怖に背中を向け、目を閉じてしまうことです。そうすることによって、私たちは自分の中にあるいちばん重要なものを、何かに譲り渡してしまうことになります。私の場合には――それは波でした」

 

神の子どもたちはみな踊る

出版社:新潮文庫

単行本発売日:2000/02

文庫本:237ページ

P.112 神の子どもたちはみな踊る
僕らの心は石ではないのです。石はいつか崩れ落ちるかもしれない。姿かたちを失うかもしれない。でも心は崩れません。僕らはそのかたちなきものを、善きものであれ、悪しきものであれ、どこまでも伝えあうことができるのです。神の子どもたちはみな踊るのです。

P.142 タイランド
「これからあなたはゆるやかに死に向かう準備をなさらなくてはなりません。これから先、生きることだけに多くの力を割いてしまうと、うまく死ぬることができなくなります。少しずつシフトを変えていかなくてはなりません。生きることと死ぬることとは、ある意味では等価なのです」

P.185 かえるくん、東京を救う
「目に見えるものがほんとうのものとは限らない」

 

うずまき猫のみつけかた

出版社:新潮文庫

単行本発売日:1996/05

文庫本:255ページ

P.126
生活の中に個人的な「小確幸」(小さいけれども、確かな幸福)を見出すためには、多かれ少なかれ自己規制みたいなものが必要とされる。たとえば我慢して激しく運動した後に飲むきりきり冷えたビールみたいなもので、「うーん、そうだ、これだ」と一人で目を閉じて思わずつぶやいてしまうような感興、それがなんといっても「小確幸」の醍醐味である。そしてそういった「小確幸」のない人生なんて、かすかすの砂漠のようなものにすぎないと僕は思うのだけれど。

网友评论1

  1. 沙发
    theshore:

    怪奇なる世界というのは、つまりは我々自身の心の闇のことだ。『海辺のカフカ』

    2013-06-14 下午 5:39