『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』村上春樹著

10年の時を隔てた「心中」

 

波瀾(はらん)万丈の『1Q84』から3年、村上春樹待望の新作長編は、名作『ノルウェイの森』を凌(しの)ぐ重厚で清澄なゴシックロマンになった。

主人公のつくるは生地名古屋で、〈秘密結社〉のような高校生の仲良し5人組のなかに、友愛の神話と青春の楽園、「乱れなく調和する親密な場所」を見いだしていたが、他の4人は地元の大学に進学したのに、つくるだけは上京し、今は東京の鉄道会社で駅を「つくる」仕事に就いている。

16年前のこと、東京の大学2年生だったつくるは、名古屋の5人組から突如追放の宣告を受けた。以来、トラウマとなったその記憶を封印した36歳のエンジニアは、ガールフレンドの助言を入れ、理不尽な絶交の理由を知るために、5人組の残りの人たちをめぐる〈巡礼〉に出る。

意外なことが明かされる。仲間の一人、シロがつくるにレイプされたというのだ。つくるには身に覚えのないことだ。精神を病むシロのために、仲間たちはつくるを切らざるをえなかったのだ、と。

しかもシロの口から真相を聞くことはできない。この音楽大学を出た美しい女性は、6年前、何者かに絞殺されたのだ、--大きな謎と傷をつくるに残したまま。

ミステリータッチの小説だ。村上の主人公には親しい〈壁抜け〉あるいは幽体離脱--精神医学で言う解離性障害--がヒントになる。

かつて5人組からの除名によって「死の胃袋」に落ちたつくるは、幽霊さながら本人の意思と離れた行動をとるようになる。表題は〈幽霊(幽体)のように「色彩を持たない」〉の意だったのである。

つくるとシロは10年の時差のある〈心中〉を遂げたともいえる--つくるの場合、20歳の時の〈魂の中の死〉によって、シロの場合、30歳の時の他殺によって。2人は6年前、「連結された闇の中で」秘(ひそ)かに通じあったのかもしれない。そういう読み方にこの小説は開かれている。

シロが弾くリストの『巡礼の年』が、遠くフィンランドへ旅するつくるの心に、少年の日の恋人とふるさとを失った哀切な旋律を奏でる。(文芸春秋・1785円)

評・鈴村和成(文芸評論家)

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